救命救急医を志す人たちへ

日本医科大学大学院医学研究科外科系救急医学分野教授
(日本医科大学付属病院高度救命救急センター長)横堀將司

日本医科大学付属病院高度救命救急センターは、1975年開設の「救急医療センター」と1977年開設の「救命救急センター」を前身としています。長年の実績が認められ、1994年に全国初の「高度救命救急センター」になりました。以来、重症疾患(多発外傷・脳卒中・心不全・呼吸不全・敗血症・多臓器不全・広範囲熱傷・急性中毒など)を中心に、年間1,600~1,800人の患者さんを治療しています。

高度救命救急センターで活躍する医師の多くは、日本医科大学救急医学分野のいわゆる教室員です。当施設では、救急科専門医や指導医を取得することに加え、外科、脳神経外科・胸部外科・整形外科・集中治療など関連学会の認定医、専門医を有することを目指した教育プログラムを整えています。新専門医制度に移行しつつある中で、そのようなスタンスは今後も変わりません(下図参照)。

また、日本医科大学の他の付属3病院(武蔵小杉病院・多摩永山病院・千葉北総病院)や当教室が係っている全国の救命救急センター、救急部(下記研修プログラム参照)と密接に連携し、あらゆる救急患者さんへの適切な対応と治療、その知識と技術を習得します。

このように、救急患者さんの初療や実際の治療を習得するプログラムを有する一方で、大学院生や研究班を中心に基礎的研究も積極的に行っています。専門医取得はもちろん、大学だけが授与できる学位取得(医学博士)のための指導も充実。一定の知識や技術を取得した後に、さらなる向上を目的としたブラッシュアップ研修も救急医学、外科学、脳神経外科学などの分野で取り入れ、米国やヨーロッパを中心に海外留学も奨励し支援しています。実際、講師以上のスタッフは全員が海外留学を経験しています。また、厚生労働省を中心とした行政との人事交流も行っており、現在も1名出向しています。

他方、国内外の大災害に対しての医療支援もしています。国や東京都、そして地域消防署が毎年主催する災害訓練やセミナーに積極的に参加し、知識や技術の習得、維持に努めています。最近では2016年5月伊勢志摩サミット首脳班医療対応、同年4月熊本地震、2015年5月のネパール地震、同年9月の茨城県洪水災害、2013年11月フィリピン国での台風災害、2011年東日本大震災、福島第一原子力発電所事故において医療支援を行いました。また、警視庁と連携するIMATや、日本DMAT、東京DMAT、日本医師会JMAT、全日本病院協会AMATの活動にも力を入れています。その他にも、2008年の秋葉原無差別殺傷事件での現場活動や傷病者治療、2004年のスマトラ沖地震津波災害(5カ国6チーム)など。国内外問わず、積極的な医療支援活動を続けています。

当施設では「挑戦」を合言葉に、スタッフ全員が重症患者さんの救命のために全力を尽くしています。研究面では「遺伝子から災害医療まで」をモットーに、幅広い活動を行っています。

このように救急医学は裾野が広い学問体系を有していますが、当施設ではそれらを全て経験、習得、そして将来それぞれの分野で日本のリーダーになるような人材を育成して行こうと考えています。興味のある方は是非一度、ドアを叩いてください。

特色

日本医科大学救急医学教室が運営する高度救命救急センターは1977年,本邦最初の救命救急センターとして認可され,1993年に全国救命センターの “The Best of Bests”として本邦で第1号の「高度救命救急センター」の認定を受けました。豊富なマンパワーと技術や情熱を背景に東京都第3次救急医療施設として東京消防庁からの救急患者や,都内を中心とした2次救急病院から年間約1600~1800人の重症救急患者を受け入れています。

院内臨床各科とは密接に連携しながらも,独立した診療体系で運営され,初期治療から外科的治療,ICU管理まですべて当科専属の医師(約40名)と看護師(100名)が24時間体制で治療にあたります。救急医学教室スタッフは,救急医であると同時に外科、脳神経外科,胸部外科,整形外科,集中治療などの認定医,専門医を有する救急専門医集団でもあります。専修医,スタッフ,大学院生には救急医学会専門医を取得し,さらに希望するサブスペシャリティーの専門医取得に対するカリキュラムを有しています。

収容患者はすべて心肺危機を伴う,あるいはその危険性の高い重症救急疾患が中心です。年間入室患者数は約1600~1800人。疾患別内訳は,多発外傷など重症外傷が約20%を占め,脳血管障害,広範囲熱傷,急性中毒,急性腹症,各種臓器不全および心肺停止患者が50%を構成しています。手術件数は,年間約700件です。内訳は,開腹術約150件,開頭術約250件,整形外科手術約300件,開胸術70件,植皮術60件などです。来院時心肺停止を除いた全体の救命率は85%。収容患者の3分の2は患者発生現場からの直接搬送です。

さらに2008年10月からは日本医科大学付属病院に開設された総合診療センター内の救急診療科を運営し、地域の初期・二次救急医療にも力を入れております。年間約2万人の救急患者と8500台の救急車による救急患者を診療しています。日本医科大学救急医学教室は重篤な救急疾患から、ERに来院する様々な救急疾患に対応できる幅広い能力を身につけた救急医を育成するカリキュラムが完備しています。

・当科で取得できる資格

医学博士 / 救急科専門医 / 外科専門医 / 脳神経外科専門医 / 整形外科専門医
日本外傷学会専門医 / 日本熱傷学会専門医 / 日本集中治療学会専門医
日本脳卒中学会専門医 / 日本脳神経血管内治療専門医 / 日本医師会認定産業医
JATECインストラクター / ACLS(ICLS)インストラクター / JPTECインストラクター
DMAT / JMAT / AMATなど

臨床内容

現在の日本の救急医療システムは施設毎に違いがあり,日本救急医学会ホームページのER特別委員会による紹介では, 救急初期診療には関与せず重症入院患者の集中治療のみを行う“集中治療型”,全ての救急初期診療を担当するER型, 各診療科が自分たちの専門領域の症例を担当して,救急初療から集中治療や病棟での治療までを担当する“各科相乗り型”の3つのタイプに分けると紹介されています。そして,主に重症患者(3次救急患者)の治療を目的として,日本医科大学付属病院高度救命救急センターは独立型あるいは自己完結型といわれる救急医療体制で運営されています。救命救急センターの中には,救急用専用手術室,検査室や熱傷ユニットなどがあります。

サブスペシャリティーを有する救急の専門医のスタッフが救急医療を研鑽したいと志願するドクターと専修医、初期研修医の教育を担当します。外科,腹部外科,脳神経外科,整形外科などのサブスペシャリティーを有する救急科専門医と専修医,研修医などによる6~7人の医師が1つのチームとなり,3~4チームの医師団とこれをスーパーバイズする指導医による診療を行います。

日常の診療においては,休日の翌日は8時,他の日は8時30分に始まる前日入院症例のpresentationと診断・治療などの確認,入院中の症例の検討と回診により,スタッフ全員が入院症例を把握し,精度の高い救急・集中治療をはかっています。救急患者の入室に際してはグループを越えて診療に当たり,とくに多発外傷症例に対しては当センタースタッフが参集し,一丸となって救命にあたります。夜間も4名以上の医師が診療に携わり,迅速かつ的確な判断が求められる救急初療のみでなく,繊細で緻密な集中治療までを担当しており,十分なdiscussionのもとに質の高い救急・集中治療の24時間365日の提供を常に心がけています(図:毎日行われる朝のカンファレンス)。

朝のカンファレンス以外に,放射線科とのX線カンファレンス,脳神経外科系患者や外科系患者に対する症例カンファレンス,神経内科放射線科との合同の神経カンファレンス、感染症カンファレンスや集中治療、災害医療に関するカンファレンス等を毎週行うことにより,スタッフが症例を共有することを可能とし,さらなるレベルアップに貴重な時間となります。また,蘇生にかかわる気管挿管,静脈ライン確保,各種ドレナージなどの基本的な手技の修得においては常に上級医が指導し,また,専修医,研修医を問わず,希望のある医師は,多くの手術や外科的手技を実践し,修得しています。

当センターでは、2008年10月以来、3次救急患者の診療のみではなく,初期および2次救急患者の診療も総合診療センターの救急診療科で行っています。このことは,救急専門医あるいは救急専門医を志す医師のみではなく,一般医として,さらに救急以外の専門医としても役立ちうる基礎的臨床能力の修練するためにも非常に大切だと考えており,常に指導医にコンサルテーションが可能な診療体制のもとに診療を行っています。

先に述べた多岐にわたる重症救急患者の初療,600を越える手術,そして集中治療とその後のフォローアップまでも行う体制は,診療の質の維持とともに,すべてのスタッフが患者様から多くのことを学び,高いレベルを維持するために重要であると考えています。

研修プログラム

救急医学の専門性を追求することはもちろんですが,同時に興味をもったサブスペシャリティー教育を重視しています。すなわち,救急科専門医や指導医を目指した研修,さらに外科専門医,脳神経外科専門医,整形外科専門医,外傷専門医、熱傷専門医,集中治療専門医,脳卒中専門医,内視鏡専門医などの取得が可能な研修プログラムを有しています。

また,教室内には外科班,脳外科班,整形外科班,集中治療班、災害班などの臨床・研究グループが積極的に活動し,臨床医は1つ以上のグループに所属することになっています。このような臨床医学の研修プログラム以外にもprehospital care,すなわち救急活動の現場からの教育も取り入れています。当救命救急センターで独自に運営しているドクターアンビュランス(DA)は当救命救急センターが東京消防庁と協力して運用している極めてユニークなシステムで各方面の注目を集めていますが,このDAシステムを積極的に専修医教育に活用取り入れています。

さらに救急初療の標準化が外傷,循環器疾患等を中心としてシステムが広まりつつあります。具体的には外傷初療の標準化を目的に日本救急医学会と日本外傷学会が作成した外傷初期診療ガイドライン(JATEC) が展開されていますがその中心的な役割を果たした当教室員が,定期的に研修医や専修医,スタッフ,大学院生に対して分かりやすい教育をしています。

・関連施設

日本医科大学武蔵小杉病院救命救急センター
日本医科大学永山病院救命救急センター
日本医科大学千葉北総病院救命救急センター / 日本医科大学成田国際空港クリニック
川口市立医療センター救命救急センター / 山梨県立中央病院救命救急センター
国立病院機構災害医療センター救命救急センター / 会津中央病院救命救急センター
武蔵野赤十字病院救命救急センター / いわき市立総合磐城共立病院救命救急センター
八戸市立市民病院救命救急センター / 東京臨海病院救急部
足利赤十字病院救命救急センター / 荒尾市民病院救急部
さいたま市立病院 / 静岡県立総合病院 / 愛媛大学医学部附属病院

募集要項

短期間実習や学生実習についても歓迎します。その他質問など何でも遠慮なくご連絡ください。

応募資格 専修医、大学院生、救急専門医取得希望者
提出書類 履歴書,医師免許証(写)
選考方法 面接,書類選考(いつでも可)
問い合わせ先 日本医科大学付属病院 高度救命救急センター 医局
住所 〒113-8603 東京都文京区千駄木1-1-5
TEL 03-3822-2131
FAX 03-3821-5102
メール masuno@nms.ac.jp(医局長 増野 宛)

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